主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-②
隣に寝転ぶと、安心したようにすぐ眠ってしまう主さま。

いつもは無表情で近寄り難い雰囲気を醸し出しているくせに、寝顔はあどけなくて可愛い。

ひとしきり主さまの寝顔を見ていると、若葉がぐずりだしたのですさかず抱っこをして部屋から出た。


「よしよし、どうしたの?お腹空いたの?お乳あげようか?」


お腹が空いたらしく、小さな手で胸を触られると余計に母性をくすぐられてしまう。

離乳食を口にし始めた若葉のために重湯を作ってあげて飲ませながら、つい思いが口に出てしまった。


「私もお乳が出たらいいのに…」


「そうするには子を生むしかないねえ」


「あ、父様だ。やっぱりそう思う?私…こんなに赤ちゃんが欲しいって思ってる自分にびっくりしてるの。でもこんなせ生活じゃまだまだ先の話かな」


山姫を迎えに来た晴明が庭からひょっこり現れると、息吹は口の回りをべたべたにした若葉の口元を拭ってやりながら笑った。

昼夜逆転の生活をしているので、この願望を叶えるのは思ったよりも難しい。

主さまは助平だが、どうしても恥ずかしさが先に立ってしまって、求められても拒絶してしまうので、嫌われたりしないかと薄々不安に駆られることもある。

微笑を浮かべて聞いてくれる晴明にこれ以上愚痴を言ってしまうと厄介なことになるので、話題の転換をと考えた息吹は、地主神の僅かな変化を教えた。


「私毎日地主神様に会いに行くんだけど、お話を聞いてもらっているとね、時々光ったり石があたたかくなったりする気がするの。父様どう思う?」


「そうだねえ…どれ、私も久々にお会いしに行ってみようか」


「!じゃあ私も一緒に行く!父様とお散歩!お散歩!」


若葉も一緒に連れて行くためにおんぶ紐を使って抱っこすると、久々に晴明と一緒に歩けることが嬉しくて、手を繋いでもらった。


「父様覚えてる?私が小さかった頃幽玄町が懐かしくて泣き止まなくて、困った父様が手を繋いでお屋敷の庭や裏山を歩いてくれたこと…私は今でも覚えてるよ」


「覚えているとも。私も独り身で誰かと生活をしたことがなかったからねえ、苦労したものだよ。だがそなたはすぐ懐いてくれて手がかからなかった。小さな頃からできた子だったよ」


綺麗に整備された細道を上りながら昔話に花を咲かせた。

親も子も、まだまだ子離れ親離れできていなかった。
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