主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-②
主さまに大人しく肩を抱かれて、少し嬉しそうにしている息吹を見ていて胸がちりちりした義経は、ふらりと1歩前進すると、主さまに睨まれた。


「俺と息吹が幸せに暮らしているという事実をお前に見せつけるためにやって来た。これ以降は俺の縄張りだ。縄張りに入れば…お前を俺の百鬼たちの食い物に変えてやる」


「…!い、息吹姫…っ、私の文は読んで頂けましたか?」


「あの…はい…主さまが」


「では…あなたは読んでいないと?」


「…はい、ごめんなさい。私…主さまが大好きなんです。はじめて恋文を頂いたので浮かれてしまったけど、主さまが1番大切です。だからこれ以上主さまを怒らせないで下さい。お願いします」


息吹が頭を下げた時――主さまは息吹に“大好き”と言われて耳が熱くなるのを感じていた。

きっと今顔も赤いのだろう、と冷静に考えていたが、義経は動揺を隠しきれず、主さまが猛烈に照れていることに気付いていなかった。


「…というわけだ。俺は息吹を騙して妻にしたわけでもなければ、無理矢理幽玄町に連れ込んだわけでもいない。お前は静とかいう白拍子とうまくやればいい」


「静は…関係ありません。私は息吹姫を…」


「お前…本気か?この状況でまだ息吹を求めるのか?…ふん、見ていろ」


そう言い放ち、顔を上げた息吹の顎を取って上向かせた主さまは、息吹の目がまん丸になり、その中に自分の姿が映り込みながら大きくなる様を見つめながら――唇を奪った。

義経も息吹も突然のことで身体が動かなくなったが、主さまは見せつけるように息吹の唇を味わって楽しみながら、腰砕けになった息吹の身体をひょいと抱き上げて不敵な笑み、全開。


「もっと見たいか?ここで帯を外しても俺は一向に構わないんだが」


「や、やだ、主さまの馬鹿っ!助平!!お、降ろして!」


わなわなと震える義経の拳を見てまたにやりと笑んだ主さまは、恥ずかしがって両手で顔を覆っている息吹に視線を落とした。


「“もう会いに来るな”と言ってやれ」


「……も、もう…会いに来ないで下さい…。お願いします…」


「息吹姫…。私は…迷惑なのですね…?」


「私…人妻なんです。ごめんなさい」


主さまが背を向けて幽玄町側へと引き返す。

赤鬼と青鬼は主さまと息吹の情熱的な口づけを一部始終余すことなく目撃しており、2人に頭を下げたが…

その時の様子はあっという間に百鬼に広まってしまっていた。
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