主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-②
上機嫌で山を下りて屋敷に着くと――
何故か早朝から山姫が井戸の前で洗濯をしていた。
夫婦になってから洗濯はずっと息吹の役割だったのでどうしたのかと思って近寄ってみると…山姫が洗っているのは、どう見ても枕だ。
「母様…それって主さまの枕?」
「!あ、ああ、そうなんだ。主さまったら床の上でお茶を零したらしくて枕に盛大にかかっちまったんだよ。ほんとだらしない人なんだから」
「もお何やってるの主さま。母様代わるよ?」
「い、いやここはいいからあんたは主さまの傍に居てやんな。あんたが居なくて機嫌が悪くて困ってるんだよ」
何故か山姫が慌てているように見えたが、主さまの機嫌が悪いとみんなびくびくしながら過ごしているので、自分が主さまの機嫌を戻さなければ。
洗濯を山姫に任せた息吹は縁側に主さまの姿がないので夫婦共同の部屋に入ると、部屋に漂う仄かな香りに気が付いた。
「これ…なんの香り?主さまどこでこの香りくっつけてきたの?」
「!……何か匂うか?何も匂わないが」
「嘘、なんか花の香りみたいないい匂いがするよ?それより主さま、寝ながらお茶を飲もうとするなんてだらしないよ。次から二度としないでね」
「…わかった」
「お布団も外に干されてたけど、汚したのは枕だけじゃないんでしょ?今日中に乾くといいけど…」
「…乾かなければ今夜はお前が使っていた床を使う。…あと換気をするから障子は開けておけ。息吹、こっちに来い」
部屋の中央でごろ寝をしていた主さまが起き上がると、息吹は膝枕を要求されているのだと悟ってその要求に応えた。
かなり疲れている表情をしていたのでこれからもっと叱ろうと思っていたのだが、やめておこうと思った。
「今日もご苦労様でした。すごく疲れてるみたいだけど大丈夫?」
「…確かにすごく疲れた。…精神的にもな」
「?そうなの?じゃあ後でお風呂入れてあげるからゆっくり浸かってね」
「お前と入りたい」
「え?今…なんて言ったの?」
「お前と、入りたい」
はっきりと一言一句確実に言った主さまは、息吹の頬に手を伸ばして優しく撫でた。
こんな朝っぱらから一緒に風呂など恥ずかしくて入れるはずがなく、ぶんぶん首を振ると主さまは不機嫌そうに鼻を鳴らして、体勢を変えて息吹の腰に抱き着くようにして太股のやわらかい感触を楽しむ。
そうしながら、胡蝶の存在を息吹に言いだせずにいた。
何故か早朝から山姫が井戸の前で洗濯をしていた。
夫婦になってから洗濯はずっと息吹の役割だったのでどうしたのかと思って近寄ってみると…山姫が洗っているのは、どう見ても枕だ。
「母様…それって主さまの枕?」
「!あ、ああ、そうなんだ。主さまったら床の上でお茶を零したらしくて枕に盛大にかかっちまったんだよ。ほんとだらしない人なんだから」
「もお何やってるの主さま。母様代わるよ?」
「い、いやここはいいからあんたは主さまの傍に居てやんな。あんたが居なくて機嫌が悪くて困ってるんだよ」
何故か山姫が慌てているように見えたが、主さまの機嫌が悪いとみんなびくびくしながら過ごしているので、自分が主さまの機嫌を戻さなければ。
洗濯を山姫に任せた息吹は縁側に主さまの姿がないので夫婦共同の部屋に入ると、部屋に漂う仄かな香りに気が付いた。
「これ…なんの香り?主さまどこでこの香りくっつけてきたの?」
「!……何か匂うか?何も匂わないが」
「嘘、なんか花の香りみたいないい匂いがするよ?それより主さま、寝ながらお茶を飲もうとするなんてだらしないよ。次から二度としないでね」
「…わかった」
「お布団も外に干されてたけど、汚したのは枕だけじゃないんでしょ?今日中に乾くといいけど…」
「…乾かなければ今夜はお前が使っていた床を使う。…あと換気をするから障子は開けておけ。息吹、こっちに来い」
部屋の中央でごろ寝をしていた主さまが起き上がると、息吹は膝枕を要求されているのだと悟ってその要求に応えた。
かなり疲れている表情をしていたのでこれからもっと叱ろうと思っていたのだが、やめておこうと思った。
「今日もご苦労様でした。すごく疲れてるみたいだけど大丈夫?」
「…確かにすごく疲れた。…精神的にもな」
「?そうなの?じゃあ後でお風呂入れてあげるからゆっくり浸かってね」
「お前と入りたい」
「え?今…なんて言ったの?」
「お前と、入りたい」
はっきりと一言一句確実に言った主さまは、息吹の頬に手を伸ばして優しく撫でた。
こんな朝っぱらから一緒に風呂など恥ずかしくて入れるはずがなく、ぶんぶん首を振ると主さまは不機嫌そうに鼻を鳴らして、体勢を変えて息吹の腰に抱き着くようにして太股のやわらかい感触を楽しむ。
そうしながら、胡蝶の存在を息吹に言いだせずにいた。