主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-②
晴明と雪男に見つからないでよかった、と正直に思った。
晴明に知られてしまえばすぐに平安町に連れ戻されるだろうし、雪男に知られてしまえば今以上に息吹にべったり張り付いたり毎日抗議されたりして責められるだろう。
胡蝶がすぐ帰ったので知られずに済んだが――息吹が胡蝶の残り香に反応したのは、失態だった。
「主さま、お布団乾いたから取り込んでおくね。今度からはお茶とか寝ながら飲んじゃ駄目なんだから」
「…悪かった。じゃあ行って来る」
「ねえ、なんか様子が変だけど大丈夫?体調が悪いんじゃないの?」
百鬼夜行に出る前、主さまの顔色が優れないことに気づいた息吹は背伸びをして主さまの額に手をあてた。
熱がある風ではなかったが、時折思い出したようにため息をついている主さまが心配で見つめていると、主さまは息吹を振り払うように背を向けて空を駆けてしまった。
「変なの。ねえ母様、主さま様子がおかしいと思わない?」
「…え?そ、そうかい?あんなもんだろ?」
「そうかなあ?私の気のせいならいいんだけど。母様、夕餉の準備手伝ってもらってもいい?」
「あいよ。…きっとあんたの取り越し苦労だよ。床を汚したからあんたに怒られるんじゃないかってびくびくしてたからねえ」
「確かにちょっとは怒ったけどそれにしても…まあいっか、明日戻って来たらそんなに怒ってないことちゃんと言わないとね」
皆で夕餉を食べてひとしきり談笑した後部屋に戻った息吹は、換気をしたおかげでようやく香らなくなったことに満足して床に横になる。
すぐに寝てしまう息吹は杞憂を残しつつ明け方までぐっすり眠り、主さまが戻って来るまでに地主神の参拝を済まそうと決めていたので眠い目を擦りながらお供えを用意して裏山を上る。
…そんな息吹と入れ違いに、再び胡蝶が現れて夫婦共同の部屋にそっと入り、辺りを見回した。
「また居ないのね。ふふふ…どちらが先に帰ってくるかしら」
楽しそうに呟き、着ていた着物を脱ぎ散らかして床に潜り込む。
どちらが帰って来てもいいと思いながら。
晴明に知られてしまえばすぐに平安町に連れ戻されるだろうし、雪男に知られてしまえば今以上に息吹にべったり張り付いたり毎日抗議されたりして責められるだろう。
胡蝶がすぐ帰ったので知られずに済んだが――息吹が胡蝶の残り香に反応したのは、失態だった。
「主さま、お布団乾いたから取り込んでおくね。今度からはお茶とか寝ながら飲んじゃ駄目なんだから」
「…悪かった。じゃあ行って来る」
「ねえ、なんか様子が変だけど大丈夫?体調が悪いんじゃないの?」
百鬼夜行に出る前、主さまの顔色が優れないことに気づいた息吹は背伸びをして主さまの額に手をあてた。
熱がある風ではなかったが、時折思い出したようにため息をついている主さまが心配で見つめていると、主さまは息吹を振り払うように背を向けて空を駆けてしまった。
「変なの。ねえ母様、主さま様子がおかしいと思わない?」
「…え?そ、そうかい?あんなもんだろ?」
「そうかなあ?私の気のせいならいいんだけど。母様、夕餉の準備手伝ってもらってもいい?」
「あいよ。…きっとあんたの取り越し苦労だよ。床を汚したからあんたに怒られるんじゃないかってびくびくしてたからねえ」
「確かにちょっとは怒ったけどそれにしても…まあいっか、明日戻って来たらそんなに怒ってないことちゃんと言わないとね」
皆で夕餉を食べてひとしきり談笑した後部屋に戻った息吹は、換気をしたおかげでようやく香らなくなったことに満足して床に横になる。
すぐに寝てしまう息吹は杞憂を残しつつ明け方までぐっすり眠り、主さまが戻って来るまでに地主神の参拝を済まそうと決めていたので眠い目を擦りながらお供えを用意して裏山を上る。
…そんな息吹と入れ違いに、再び胡蝶が現れて夫婦共同の部屋にそっと入り、辺りを見回した。
「また居ないのね。ふふふ…どちらが先に帰ってくるかしら」
楽しそうに呟き、着ていた着物を脱ぎ散らかして床に潜り込む。
どちらが帰って来てもいいと思いながら。