先生、あのね。
暫く硬直していた私だけど、この男の人は一向に起きる気配が無い。
…起こそうか。
いやいや。
起きて襲われでもしたらどうする?
私、一応女子だし、この人は勝手に女子高生の膝を借りて寝ちゃうような人だし。
(……うーん………)
どうしたものか、と男の人の顔を見ながら考えていた瞬間。
「……ん?」
冷たい風が吹いたと同時に、その人の瞼が微かに開けられた。
「!!!!」
私はびっくりして、咄嗟にその人から離れた。
今まで枕にしていた膝が無くなったその人は、頭を地面に勢い良くぶつけた。
「いってぇ………」
ゴン、と鈍い音と同時に、男の人が後頭部をおさえる。
「…ぇ、あ……の……」
私が怪訝そうな顔でそちらを見ると、その男の人はまだ何もわかっていない様子でこちらを直視した。
「お?……あぁ、昼間の昼寝してた嬢ちゃんか。お前なー。いっくら今の時期があったけえっていっても、こんな時間までそんな薄着で寝てちゃ風邪ひく………っはっくしょい!!!」
(何なのこの人………)
目を覚ました姿を見て、やっぱりカッコいいと思ったけど、注意されてるのか心配されてるのか…。
とりあえず、スーツを借りたお礼はしなくちゃ。
「…あの、これ。ありがとうございました…」
ズッ、と鼻を啜りながらくしゃみを続ける男の人に、上着を畳んで返した。
「おう。どういたしまして」
ニカッとはにかんだ無邪気な笑顔に、どこか懐かしさを感じた。