片想い
敏輝がそう口を開いた時、菜月は、とっさにカバンを掴み、部屋を出て行ってしまった。社会人の彼氏と付き合って半年以上が過ぎた菜月には、この後の話が別れ話になることは簡単に予想が出来た。
まだ、お昼なのに、梅雨の時期独特の愚図ついた空が今にも泣きそうで、まるで菜月の心を写しているかのようだった。
家に帰ると同時に雨が降り出した。自分の部屋に入り、電車に乗っている間も家に着くまでも震えていた携帯を取り出した。着信は、全て敏輝だった。すると、また、敏輝からの着信を知らせた。しかし、菜月は、そのまま携帯の電源を切り、ベッドの上に放り出した。
“転勤は、社会人だから仕方がない。でも、もっと早く言って欲しかった。少しでも相談して欲しかった。”
菜月は、社会人の敏輝が転勤を言ってくれなかったことで、自分がまだ学生で、敏輝と対等ではないことを思い知らされた。
その日から、菜月は敏輝と連絡を取ることを止めてしまった。