黒竜と魔法使い。~花檻の魔法使い~
華竜
竜の住む地(大地と空の間――『狭間』と呼ばれる空間)で、一匹物思いにふける竜がいた。
黒竜―ベルデウィウス。
彼は長き間、人間たちの干渉を受けず穏やかに生を過ごしてきたのだが同胞の失態により大陸の各地の魔法使いの中で治癒に秀でたものを探していた。
出会った魔法使いは、少女-シルヴィア。
セント・リリエル魔法学院の生徒でありながらも、魔法使いを名乗ることを許された学生。
そして、学院を休学しながらも塔で魔法の研究をし続ける、魔法研究者《ディーン》。
自信過剰な部分があるが、その自信違わず彼女から渡された魔法薬はすでに『霊薬(奇跡)』の域に達していた。
交わした言葉は数少ない――だが、もっと彼女と言葉を交わしたい――。
彼女のともっと-―…。
「……、いけばいいのに」
炎の色を持つ赤の竜が小さくぼやく。
すると、黒く太い尻尾が赤竜の腹に勢いよく叩きつけられた。
「ぐ、フぅ…」
鋭い牙が覗く口元から泡がこぼれ、呻きながらも顎から地に落ちる。
「………」
鋭い黒眼が倒れた赤竜を黒竜-ベルデウィウスを見つめた。
簡単に言ってくれる-―、そうベルデウィウスが毒づくとふわりと空気の流れが変わり薄桃色の鱗を持つ竜が現れた。
「華竜(かりゅう)」
華竜と呼ばれた竜は喉を鳴らしながら、「ご無沙汰ですね。お二方」と声を響かせた。
「噂には聞いていましたが、本当にヒトに惹かれてしまったようですね」
ベルデウィウスを見てすぐにその赤にも茶にも似た瞳を細めた。ベルデウィウスはそんな華竜-リティリウスに問う。
「何が言いたい」
「いいえ、ただ、あの――花檻の魔法使いはお止めなさいと、伝えに来ました」
「花檻?」
赤竜が痛む腹をさすりながらリティリウスの言葉を繰り返した。
「ええ、花檻――彼女はあの塔で監禁されているのですよ―――、時が来るまで」