オオカミ少年。
「こいつらのイチャイチャはこんなもんじゃねぇじゃん」
「そうだった」
「公開キスだもんなー」
あの日のことは時間がたった今でも話のネタにされる。その度に恥ずかしい。
「俺もやってみてー!」
「お前らバカにしてんだろ!」
さすがの中田もこの話が出てくると恥ずかしいみたいで、少しだけ顔が赤い。
そういえばあの後、顔を真っ赤にして「二度とやんねー」なんて言ってたなぁ。
あの行動の理由はきっと、あたしのためでもあったんだろう。だから恥ずかしいのにあんなこと。
「平山さんごめん、やっぱりノート貸してほしいんだけど。」
申し訳なさそうに謝る多田くん。
そうだ。周りにノートをきちんのとるような子はいないんだよね。みんな寝てるし。
「全然いいよ、はい」
男子たちと話してる中田は、あたしが机の上からこっそりノートを取ったことなんて、全く気づいていない。
やっぱり書く気なかったわけね。
なんて、黒板をボーッと眺めながら考える。
「その眼鏡、度入ってないの?」
「入ってるよ。でも最近また目が悪くなったみたいでさ、結構困ってんだけど」
「そんなに悪いの?」
「かけてみる?」
なんて言って多田くんは、自分の黒ぶち眼鏡をあたしに差し出した。