オオカミ少年。
「じゃあ俺帰るけど。」
何か言いたいことがあるんじゃないか、とでも言うかのようにあたしの顔を覗き込む。
黙ったままうつ向くあたしを見て呆れたのか、中田は屈めていた体を起こした。
もしかして、怒った?
なんて、少し心配になりながらも顔を上げる。
「あ、こっち見た」
中田は嬉しそうに笑って
「え…」
もう一度体を屈めた。
中田の顔が目の前にあるかは、あたしの緊張はとっくにピークを越えていて、思わず目を閉じた。
体温で感じる中田との距離。
誰が見てるか分からないのに。
ここは公共の場なのに。
「ん…」
中田はあたしにキスをした。
中田の唇の感触も、温かさも、もう覚えてしまっている自分が恥ずかしい。
ゆっくり唇が離れると、至近距離にいる中田が優しく笑う。