オオカミ少年。
少し高い位置にある中田の顔が、ぼやけてしまうくらいに近くにある。
そして、柔らかいものが触れる唇。
周りのザワザワした声が一瞬、聞こえなくなった。時間が止まったように感じたのはきっとあたしだけ。
「俺の彼女だって」
「え?」
クラスを確認するために集まっていた生徒が、囃し立てるような、驚きを隠せないような、何とも言えない声をあげる。
そりゃあそうだ。
こんな人だかりの中でキスなんてしたら、こうなるのは当たり前。
「な……何してんの!」
「こいつ!」
パニックになるあたしをよそに、中田は突然大きな声を出した。たくさんいた生徒は一斉に注目する。
「俺の彼女だから、手出したら…」
女子は今にも泣き出しそうで、男子はなぜかショックを受けていて。あたしはいまだにパニック状態。
「俺、怒るよ?」
そう言って、あたしをギュッと抱き締めた。
「ばっ、バカーー!!」