彼氏がいるのにマラソンで…
人気が少ない場所でペースが徐々に落ちて、彼が足を止めた。

息づかいの荒い彼は、同じく息づかいの荒い私に抱きついてきて息づかいの荒いクチは息づかいの荒い私のクチを塞いだ。

街灯の薄明かりの下、人のいないテニスコートを囲う金網に押しつけられガシャンと音が響いた。

言葉もない獣のようなキス。彼の手がわたしのほとんどない胸をまさぐり、そしてパンツのヒモに手を掛けたときに我に返った。

「彼氏がいるのにマラソンで…」

彼の手はシャツの下から侵入し、スポーツブラを突き抜けて、突起に触れた。

「彼氏がいるのにマラソンで…」

頭の中にタブーという文字。これ以上はダメだ。これ以上は。

夜空には綺麗なほどに半分の月だけが、2人を見つめている。頭に猛猛の顔が浮かぶ、ゴメン。だけど目の前にも同じ顔。別にいいよね? だめ? 高校の時の社会の先生の顔が浮かぶ。恩師だ。その恩師がダメという。ああ。だめなんだろう。

私は慌ててごめんなさいと頭を下げて、元来た道を引き返した。追ってくる茂さんを背中に感じる。

「きちゃ、らめぇぇー」

パンツの紐を結びながらというそんな走り方では追いつかれて押し倒されてめちゃくちゃにされてしまう。社会の先生は走れと言う。

私はパンツのヒモを結ぶのをやめ、大きく手を振って走り出した。

走る度にパンツがズレ落ちそうになる。

「はわわーみえちゃう。おしりが、みえちゃうよー」

ぶかぶかとまとわりつくパンツ。おそらく昨日までの私の走り方(ピッチ走法)なら、走るたびにずり下がっていただろう。
だけど違う。今日の私は違う。

今日の私は翼を手に入れたのだから。


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