社長と極上の生活
9 私だけのマーマン
3月下旬。
オフィス街の街路樹のソメイヨシノも満開の中、
私の心も春爛漫という感じ。
だって、だって、だってね、
本当に“超”が付くくらい久しぶりに
家族水入らずの時間を過ごす事が出来るんだから。
「杏花、忘れ物は無いか?」
「うん、大丈夫よ。行きましょ!」
自宅兼オフィスビルの地下駐車場で出発の掛け声を。
斗賀が生まれて初めての旅行。
過密スケジュールをやり繰りして、
やっとの思いで3日間の休暇を作ってくれた要。
要は『償いの旅行』だなんて言うけど、
私にしてみれば、『ご褒美の旅行』としか思えない。
年中仕事が忙しいのが解っているからこそ、
『どこかへ行きたい』だなんて口が裂けても言えなかった。
このところ出張続きで、逢えない時間が募っていたから
こうして、すぐ傍にいるだけでも嬉しくて堪らない。
だから、3日間もの間、
ずっと一緒に居られるだなんて、
夢のまた夢だとしか思えなくて……。
自宅を後にし、オフィス街を優雅に走らせる要の横顔をじっと見つめていると。