社長と極上の生活
10 突然の宣告
「いらっしゃいませ」
店のドアをくぐると、
挽きたての芳醇な豆の香りが鼻腔を擽る。
「杏花」
「あ、要っ。……どうしたの?」
「迎えに来た」
「もうそんな時間?」
6月は上半期の決算期という事もあって、
杏花は自分の店であるカフェの決算書類を纏める為に
数日前から毎日数時間、店に籠っている。
「斗賀は?」
「村岡さんに預けてある」
店にいないのを知ってて聞く。
生後10か月を過ぎ、すくすくと育っている斗賀は
最近はハイハイからつかまり立ちをするようになって
足腰が丈夫なのか、今にも伝い歩きをしそうな勢い。
離乳食は村岡のフォローもあって、
問題なく進められているようだ。
最近はお昼寝も殆ど必要なくなり、
午後に1回寝かせる程度らしい。
仕事に追われ、最近子育てから離れ気味の俺は
久しぶりに早めに仕事にキリがついた事もあり
こうして愛妻を迎えに来た。
「もうちょっと待ってて?」
「手伝おうか?」
「ううん、大丈夫。ちょっと待っててね?」
事務所から店内へと駆けて行った杏花。