社長と極上の生活
とある日の朝。
「いってらっしゃい」
「行って来ます」
「っ……」
「杏花?……どうした?」
「ううん、何でもない」
玄関で『行って来ますハグ』をした際に
杏花の顔が一瞬曇ったのを見逃さなかった。
カフェの半期決算月という事もあって
自宅でも仕事をしているから、
寝不足で眩暈がしたのかもしれない。
「あまり根詰めすぎないで昼寝でしろ?」
「うん、……ありがと」
時間を気にする彼女は、俺の背中をトントンと軽く叩いた。
『早くしないと遅刻するわよ?』と言いたげな感じで。
そんな彼女の髪を一撫でして、仕事へ向かう。
専用エレベーターで社長室のある階へ。
2週間後の月末に、数年前から企画している
大型プロジェクトのイベントが控えている俺は、
最終段階に入って、これ以上ないほどの激務に追われている。
「社長、30分後にオンライン会議、1時間後に取締役の定例会議、11時30分にエトワールホテルにて金崎商事の緒方社長との会食、14時より対策会議が入っておりまして、本日の最終業務は16時よりオンラインにて責任者会議となっております」
「ん、分かった」