社長と極上の生活


愛妻の口から、寝言でも名前を呼ばれたら


無条件で心が満たされる。


これが、彼女の夢の中ではなく


リアルタイムで視線を合わせて言って貰えたら


他に何も望むものなんてないのに……。


『倖せ』という情欲の塊を胸の奥に押し込んで


浴室へと重い足取りで向かう。


シャワーを浴びて愛妻が眠るベッドに潜り込むと、


久しぶりの抱き心地に酔いしれ、眠りに誘われて…。





「ぅっ……」


「……杏花……?」


「あ、ごめんね。起こしちゃったわよねっ」


俺の腕の中にいる杏花から苦痛のような、


息を押し殺すような声が漏れ出し、


それに気づいて目が覚めた。


杏花は苦笑しながら『くしゃみが出そうだったから』と言う。


杏花のくしゃみで起こされるなら本望というもの。


だって、いつもなら無機質なアラーム音で起こされるのだから。


俺を気遣う可愛い愛妻を抱き締めた、その時。


「っ……、ごめんっ、要」


俺の胸に右手を突き、杏花は俺を拒絶するような態度を取った。


自身の胸に寄せている左手が小刻みに震えていた。


「あっ、悪い。ごめん」

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