社長と極上の生活


左手が痺れていたのだろう。


抱き締めたことで鋭い痛みが走ったようだ。


歪んだ表情が解けるのをじっと待つ。


すると、苦笑しながら顔を上げた杏花と視線が絡む。


「昨日は運んでくれて、ありがとっ」


「どう致しまして」


やっと杏花が笑顔に戻った。


久しぶりの目覚めはプチトラブルはあったものの


やっぱり愛妻を抱き締めて目覚めるのは最高だと実感する。


今日一日頑張れそうだ。



「行って来ます」


「いってらっしゃい」


出勤するため、玄関先で愛妻を抱き締めると


「っ……」


何故か、体を少し強張らせ、


俺に体を預けるのではなく、


俺の胸に額で突くような形で体の間に距離が出来る。


どこか痛む所でもあるのだろうか?


「要っ、ごめんねっ。しゃっくりが出そうだったから」


「……あ、ん」


苦笑する彼女の髪を一撫でして、


『謝らなくていいよ』と伝えたくて優しく頷く。


杏花はすぐ謝ろうとする。


別にしゃっくりだろうがくしゃみだろうが俺は気にしないのに。


エチケットなのか、旦那にまで気を遣う妻。


いつになっても彼女の性格は変わらず、


相変わらず、お淑やかで心根が綺麗すぎる。

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