社長と極上の生活


翌朝、キッチンでスープを温めている杏花を不意に抱き締めた、その時。


「っ……」


杏花が体を強張らせ、息を押し殺すようにした。


ここ数日似たような事が何度かあった。


昨夜は微熱も出ていたようだし。


「ごめんね?ちょっとビックリしただけだから」


俺に申し訳なさそうに無理やり笑顔を繕う杏花。


鍋の蓋を閉じて、何事も無かったように俺に抱きついて来た。


けれど、やはりそれも少し違和感を覚えた。


いつものようにぎゅっと抱きつくのではなく


ふんわりと、そっと腕で包み込む感じで。


「熱は?」


「もう大丈夫」


疑いが疑いを更に呼び寄せてしまうように。


額に触れた俺の手には、いつもより少し高めの体温を感じた。


今一度……。


懸念を払拭するために杏花の体を抱き締めようとした、その時。


俺の腕からするりと逃げるようにした杏花。


視線を合わせようともせず、無理やり笑顔を張り付けて


ダイニングへと料理を運び始めた。


何か、ある。

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