社長と極上の生活


「ちょっと早いけどね」


「……ん」


「卒乳しようと思って」


「卒乳?……授乳止めるってこと?」


「……うん」


「1歳までまだ2カ月あるけど、それでいいのか?」


「っ………、う、うん」


歯切れの悪い返答。


あんなにも育児に全力投球していた杏花なのに


こんなにもあっさりと前倒しして後悔しないのだろうか?


「後悔しないか?」


「後悔……すると思うけど、仕方ないというか……」


「仕方ない?………母乳が出なくなったとか?」


育児書に書いてあった。


ストレスや疲労で、母乳の出が悪くなると。


ここ最近仕事が忙しかったし、


それが原因で出なくなったのか?


「母乳は出てるんだけどね?」


「ん?……出てるのに、止めるってこと?」


「………うん」


「どういうこと?」


男の俺には授乳のことはよく分からない。


「離乳食に切り替えて、母乳が要らなくなったってこと?」


「いや、まだ少し足さないと足りないんだけど」


「じゃあ、何?」


全くもって理由が思いつかない俺は、


ネクタイの結び目を緩めた、次の瞬間。

< 313 / 337 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop