社長と極上の生活
先程まで饒舌に語っていた
『家元夫人』と呼ばれる若い女性は
一変して、凛とした表情で
奥の部屋へと俺らを促した。
……ん?
ここって、立礼席で呈茶を戴くんじゃ?
不思議に思う俺らを余所に
お弟子さんと思われる女性と共に
何故か、奥の小間へと案内された。
スッと開かれた襖の奥に
正装と思える和服姿の男性が1人。
確か、香心流は少し前に家元が替わったはず。
恐らく、彼が『家元』であろう。
俺と差ほど変わらない歳で家元とは…。
茶道の世界も大変なんだな。
格調高い茶室で声を荒げるのもどうかと思い、
俺は杏花に目配せし、入室した。
俺の後を追うように杏花も茶室へと。
「どうぞ、楽な姿勢でお掛け下さい」
家元夫人に促され、
俺ら2人は和座椅子に腰を下ろした。