【超短編】湖
朱華
ヒュウッと朝の冷たい風が、頬を掠めた。
「まだ、寒いな。」
其れもその筈、まだ2月の下旬。
つい、1週間前までは、雪が道路の脇に積っていたのだから。
それなのに、家から出てきた自分に呆れながらも、歩みを進める。
特にこれといって行く当ても無ければ、行きたいと思う場所もない。
そもそも、家を出たのが何となくだったのだ。
こんなことは、珍しくも無い。
確か正月にも思いつきで、外へ散歩に出た。
でも後で、神社へ初詣に行こう、と決めたのだ。
今日は、何も思い浮かばない。
‐ボーっと歩いていたからか、ここが何処か分からなくなっていた。
「何、ここ。」
見えてきたのは、古ぼけた鳥居。
それが、幾つも連なっている。
まるで奥の方へ、奥の方へと、参拝者を誘うかのように。
これは、自分の好奇心を溢れさせるのには、十分すぎるものだった。