赤い月 終
頼み事
グラスがまた空になった。
もう何杯目かはわからない。
「紅玉が月夜を拾った時も、闇蝕をかけた時も、俺は反対した。
人間なんて、どーせロクデモネェってな。」
灰皿には吸い殻が溢れている。
なのにまた、煙草の先に火が灯る。
「だが月夜は、アイツが信じた通りの娘に成長した。
俺ですら、さすがは紅玉の子と認めざるを得ないほど、気高く美しいイイ女だったよ。」
これが本当に酔っ払いのホラ話なら、どれだけ良かっただろう。
「嫌がらせされていることを、月夜があのクソ野郎に訴えれば、追い出されるのはバカ女共だったかも知れない。
クソ野郎のことなんかとっとと忘れて、他の男の元に嫁いでいれば、刺客は月夜に辿り着けなかったかも知れない。
…
なぁ、景時。」
だが黒曜は、酔いなど微塵も感じさせない黒い瞳で景時を見た。
「おまえは、心が穢れていたから、心に闇を孕んでいたから、月夜は鬼になったンだと思うか?」