赤い月 終
「無理じゃな。
妾は泳げぬ。」
不毛な考えで頭を悩ませる景時に、うさぎはあっさりと言った。
聞いた景時は、ポカンと口を開く。
「うっそ…」
「本当じゃ。
正確には、泳いだ事がない。」
そっか。
飛べるンだから、泳ぐ必要なんてねぇンだ。
でも…
「意外…
うさちゃんって、何でも出来る人だと思ってた。」
「そんな筈はあるまい。」
もう一度街を、世界を見下ろして、うさぎが楽しげに笑う。
「妾にも、出来ぬ事も知らぬ事もたくさんある。
永き時を生きてはきたが、まだこの世は新たな驚きに満ちておる。」
もうすぐ頂上に辿り着く。
景時にとっては、高い場所。
うさぎにとっては、低い場所。
人と鬼。
感じ方も考え方もその思いも、全く違うのかも知れない。