赤い月 終
掌にキス

夜が来た。

この、夜が。

景時がそっと寝室のドアを開けると、うさぎはいつものようにロッキングチェアを揺らしていた。

カーテンを開け放した窓から見える、暗い夜空。

三十日月は肉眼では見えないって聞いたケド、鬼神の瞳にはどう映っているんだろう。


「どうした?
眠れぬのか?」


赤い光がキラリと瞬いた。
照明は落としてあるが、うさぎが振り向いたのがハッキリわかる。

音を立てたつもりはないケド、君には全てお見通し。

俺がナニを渇望しているのかも、お見通しカナ?

滑るようにロッキングチェアに近づき、うさぎの足元に跪く。

狂おしく赤い瞳を見上げて。

肘掛けに置かれた白い手を取って。

視線を逸らさぬまま、その掌にキスをする。


「景…」


動きかける紅い唇。

ナニも言わないで。
ナニも聞かないで。

弱い自分が溢れそうだから。

その代わり、ただそれだけで乱れるような口づけを…

< 195 / 279 >

この作品をシェア

pagetop