赤い月 終
掌にキス
夜が来た。
この、夜が。
景時がそっと寝室のドアを開けると、うさぎはいつものようにロッキングチェアを揺らしていた。
カーテンを開け放した窓から見える、暗い夜空。
三十日月は肉眼では見えないって聞いたケド、鬼神の瞳にはどう映っているんだろう。
「どうした?
眠れぬのか?」
赤い光がキラリと瞬いた。
照明は落としてあるが、うさぎが振り向いたのがハッキリわかる。
音を立てたつもりはないケド、君には全てお見通し。
俺がナニを渇望しているのかも、お見通しカナ?
滑るようにロッキングチェアに近づき、うさぎの足元に跪く。
狂おしく赤い瞳を見上げて。
肘掛けに置かれた白い手を取って。
視線を逸らさぬまま、その掌にキスをする。
「景…」
動きかける紅い唇。
ナニも言わないで。
ナニも聞かないで。
弱い自分が溢れそうだから。
その代わり、ただそれだけで乱れるような口づけを…