赤い月 終
しくじった。
やっちまった。
高杉景時(タカスギカゲトキ)は、自分を力一杯殴りたい気分で舌打ちした。
左右が入れ替わった、廃洋館の一室。
鏡の中にしかいない、泣き叫ぶ深雪(ミユキ)。
そして頭に直接響く、さっきまで聞いていた笑い声。
ここまでくれば答えは明白。
ウォールミラーの中に、引きずり込まれたのだ。
神になったとほざく鏡は、浄化されてなどいなかった。
されたフリをして、景時を飲み込む機会を窺っていたのだ。
(コイツは死んでない。
つまり、うさぎの呪も…)
景時は額の裂傷が痛々しい甘く整った顔をこれでもかと歪めて、赤く染めた猫毛を掻きむしった。