赤い月 終
しゃがみこむ深雪の膝の前に散らばる、砕けた鏡に鋭い視線を送ったうさぎは、低く、だが気遣うような声色で彼女に問うた。
「景時はどうした?」
「あは…
鏡の中に、吸い込まれちゃった…」
「鏡だと?」
思わず声を上げた黒曜を、深雪の隣に膝を落としたうさぎが睨む。
黒曜は呆れたように溜め息を吐き、そっぽを向いた。
「それで… はは…
景時くんが出てこないまま、鏡が割れちゃって…
私…
元の形に戻さなきゃって…」
「割れた?
付喪神(ツクモガミ)を殺ったのか?」
もう一度声を上げた黒曜を、もううさぎは咎めなかった。
驚きに目を丸くし、二人で顔を見合わせる。
殺ったのか?
人が? 神を?
鏡の世界に引きずりこまれ、狂いもせずに?