赤い月 終
なんて壊れかけのRadio?

白い閃光に包まれて目を細めた瞬間、ゼンキの笑った顔が見えた気がした。

『愛しているよ』
という、低く穏やかな声が聞こえた気がした。

全くもって気のせいかもしれないが、それで充分。

景時は崩壊していく鏡の中で、大の字になって転がっていた。

亀裂が走る部屋の破片が剥がれ、暗黒に墜ちていく。
もう元の室内の広さの、三割くらいのスペースしか残っていない。

さっき部屋の窓から見た、黒一色の風景を思い出す。

もうすぐココも、飲み込まれるのだろう。

黒い世界を、永久に彷徨うことになるのだろう。

だが景時の心は穏やかだった。

やっと取り戻した記憶の中だけの存在だった、父親に会えた。

叱られて。
ヨシヨシされて。
一緒に笑って。

もう充分だ。

俺は幸せだ。

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