赤い月 終

「勝手に人を殺すでない。」


冷たい声と共に浴びせられた狂暴な鬼気で、部屋の亀裂が深くなる。

唐突に課せられた圧力に、世界が一回り縮み上がる。

だが景時は、崩壊を早めたかのような周囲の様子にも全く気づくことなく、低く冷たい声の主を仰いだまま動けずにいた。

暗い世界に灯った、銀色の光。

美しい人。
優しい人。

愛しい人…


 …
 どうやってココに来たの?
 に… 人間じゃない…?

 アンタ… ダレなの…


「誰か、と問うのか?
つれない奴じゃ。
妾に神殺しを送っておきな
ひゃ?」


銀の髪を片手で背に流しながら悠然と微笑んでいたうさぎが、急に妙な声を上げた。

強い力で足首を掴まれ、引きずり降ろされる。

驚いて足元を確認しようとうさぎが視線を落とした時には、既に彼女の身体は誰かの腕の中にスッポリ収まっていた。

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