赤い月 終
「鬼神様ならば、あの術をご存知でしょう。
どうか」
「正しくは『闇蝕の呪』。
あれは呪いだ。
やめておけ。」
懇願を遮る、黒曜の威厳に満ちた声。
だが畳に手を着いて頭を下げたまま、秋時は狂おしく呟いた。
「やはり…
術は実在するんですね…」
「する。
だが駄目だ。
アレを施すには人の心は脆弱すぎ、人の世は醜すぎる。」
「何故です?!」
秋時が面を上げ、黒曜を鋭く睨みつけた。
ぶつかり合う、炎の視線と氷の視線。
座敷に険悪な空気が漂う中、景時は別のことに気をとられていた。
うさぎの様子がおかしい…
長い銀髪で横顔を隠したまま、時が止まったように動かない。
鬼気どころか気配さえ希薄。
まるで魂が消滅したように…