赤い月 終
「ごく当たり前にヒトとして清く正しくあれば、『闇蝕』が破れることはないのでは?!」
「…」
秋時の言葉を追うように、脱け殻と化したうさぎの唇が微かに動いたが、気づいたのは景時だけ。
「おまえらは一瞬でも、激しい憎悪を、深い絶望を、心に抱いたことはないか?」
「っ!
それはっ!」
「まぁ、聞けよ。
普通の人間なら、すぐに闇に染まることはない。
穏やかな時間の流れの中で新たな喜びや慰めを見出だし、鬼に成らずにすむ人間が大半だろう。
だが『闇蝕』をかけられた赤光には、その一瞬が命取りになる。
…
失敗例があるンだよ。」
今度はうさぎの身体がビクリと揺れた。
やっぱりおかしい。
なんか… ヤバい。
「ちょ… 待って、ジジィ。
うさちゃんが…」
景時はうさぎの顔を覗き込もうと身を屈めながら、秋時に話の中断を促したが…