赤い月 終

坂を転がりだした石は、もう止まらない。


「それは… だが… それは…
それはその赤光の心に『闇』に繋がるような要素が…
穢れがあったからではないのですか?!」


秋時の咆哮の直後。

窓ガラスが、外に向かって砕け散った。
庫裏全体が揺れて軋んだ。

見える範囲の物全てが弾け飛び、景時は壁に叩きつけられ、秋時は座卓や障子と一緒に縁側へ転がった。


「誰よりも優しかったあの者を闇に堕としたのは…
誰よりも美しく清らかだった月夜(ツクヨ)の心を穢したのは、貴様ら人間であろう。」


足元に濃紫(コキムラサキ)の風を纏わりつかせ、ユラリと立ち上がったうさぎが言った。

抑揚のない淡々とした声音とは真逆の、明確な殺戮の意思を見せる鬼気に、背筋が凍りつく。

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