戸田くんの取り扱い説明書
現代文担当であり、担任でもある佐藤先生の授業。
毎回必ず5分から10分ほどオーバーする授業が、今日は珍しく10分前に終わった。
わーお、珍しっ!
私はもちろん、るんるん気分だ。
すると佐藤先生はわざとらしく、大きな咳払いをした。
「朝遅刻したから話さなかったが、この前授業で行った小論文コンクールの応募作品で、戸田が見事金賞をとった!」
「おぉぉぉーっ!!」という尊敬の声と共に、視線は一気に戸田くんに集中する。
本当に?
戸田くんすごい!
佐藤先生は戸田くんの席まで行き、豪華な賞状を戸田くんに渡す。
周りは拍手の嵐。
私も後ろを振り返り、戸田くんに拍手を送る。
「おめでとう、戸田」
「はい」
普段なかなか生徒を褒めない佐藤先生が、にっこにこの笑顔で戸田くんを褒め称えている。
やっぱり、戸田くんはすごい。
佐藤先生は戸田くんを褒め倒している。
「戸田はさすがだな」
戸田くんは、照れるわけでも誇らしそうにするわけでもなく、じっとしている。
「きっとまぐれです。 そんな事はないです」
無口、無表情。
必要最低限の事しか喋らない、口数の少ない人。
加えて、戸田くんは謙虚です。