戸田くんの取り扱い説明書
その6
強引なところもあります。
ある日、清華ちゃんが言った。
「もう聞いて〜っ! 昨日ね、彼氏に唇奪われちゃったのっ!」
顔を赤くしながらそう言う清華ちゃんに、私は首を傾げた。
「…ぅええっ? だっ、大丈夫なの?」
「…は?」
あれ? いや、待てよ。
唇奪われたのに、清華ちゃん喋れてる…?
あ、返してもらったのか!
清華ちゃんの彼氏さんなら、きっと優しいんだろうし!!
「……実里? 意味、わかってる?」
「ほえ? 返してもらったんでしょ?」
私がそう言うと、清華ちゃんは呆れたようにため息をついた。
「…もう、そんなのもわかんないの? キスよ、キスの事!」
「…き、す……?」
きす?
きす…?
「……あぁ、鱚! そういう事かぁ」
彼氏さんと釣りにでも行ったのかなぁ♪
楽しそう♪
私が納得して頷いていると、さらに大きなため息をつかれた。
「はあーー、ダメだこりゃ。 戸田くんも大変だねー」
「……?」
なんの事ですか清華ちゃん?
「実里の彼氏になったら大変だ」
「せ、清華ちゃん…」
清華ちゃんはまとめて、「じゃ」と教室を出て行った。