戸田くんの取り扱い説明書
「ぃやっ! 離して! 痴漢! 変態!」
誰かに後ろから抱きしめられ、必死に叫んだ。
「黙って。うっさい」
「っ!?」
私は暴れるのをやめた。
「…と、だ、くん…?」
「うるさいって言ってるでしょ」
「…はい…」
声を聞いて、誰かすぐにわかった。
久しぶりに聞いた戸田くんの声は、なんだかイライラしている感じだった。
戸田くんの吐息が首にかかってくすぐったい。
やがて戸田くんは口を開いた。
「和泉と仲よさげに話してたから、邪魔しないように離れてたんだけど……もう限界」
「っ」
そう言うと、戸田くんは抱きしめる力を強めた。
「実里は俺より和泉がいいわけ」
「そっ、そんなわけないです!」
「俺は、実里を誰にも触れさせたくないんだけど」
「は、い…」
戸田くんは私の首に顔をうずめた。
「こんなこと言うなんて柄でもない。意外と俺、独占欲強いのかも」
「っうぅ…」
戸田くんは、ははっ、と笑う。
くすぐったい、です…
「実里は俺の傍にいればいいの」
「はい……」
「あんま他の男と一緒にいないで」
「はい……」
その日の戸田くんは、それ以上なにも言わずに、しばらくずっと私を抱きしめたままでいた。