戸田くんの取り扱い説明書
"キーンコーンカーンコーン"
「あ」
岡田実里、遅刻決定。
確かに今日は、寝坊してしまった。
私が焦りながら靴を履き替えているにもかかわらず、隣の戸田くんはやっぱり無表情。
眉ひとつ動かさない。
冷静すぎて逆にすごい。
戸田くんはため息をついたかと思ったら、私に手を差し出してきた。
「え?」
どうしたんだ、戸田くん!
「遅刻は嫌だから、早く行くよ」
「……」
…えーーっと、あのですね、戸田くん。
たった今チャイム鳴っちゃったとこなんですよね。
だから、今どんなに急いだとしても遅刻に変わりはないっていうか……
すると戸田くんはいきなり、私の手を引いてスタスタと歩いて行く。
彼女でいながら、手を握られたのは、正真正銘、初めて。
こんな小さな事で嬉しくなってニヤついてしまう私に比べて、戸田くんはやっぱりやっぱり無表情。
戸田くんは、照れる、という言葉を知らないのだろうか。