アポロチョコ

「送る。俺が送るって言ったら送る。逃げんなよ」

山上はそう言うと、あたしの右手をムズと掴んだ。

掴まれた右手に熱が走った。

いくら男勝りのあたしといえども、男の力に勝てるはずも無い。

一瞬振り払おうと腕に力を入れたあたしだが、その意思の固さに諦めた。

仕方ない。なるようになるだろう。

とぼとぼと、山上の横を歩くあたし。

話題も目的もなく歩く、この気まずさ。

沈黙に耐えかねて、あたしが口を開こうとした矢先、先手を打たれた。

「お前さ、陸上好きなの? なんか、いつも練習見てない?」

歩調も滑らかに、普通の声で、山上が鋭い質問を投げてきたのだ。

――う~、痛いとこ直球で攻めてくるなぁ~

「(あんたが)走るの見るのが好きなだけ」

「自分も走ってみれば?」

その言葉に合点がいった。

なんだ、陸上部の勧誘が目的だったのかと。
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