アポロチョコ
「位置に着いて、用意……」
<パン!>
あたしはトラックを走り出す。
今度は腕を軽く振って、地面を滑るように、滑るように。
おおぉ~、なんだか血が巡ってきたぞ。
あたしは走った。
ただ無心で。
山上に誘われたとか。
あたしらしくないとか。
まあ、そんな諸々の悩み事も吹っ飛ぶ勢いで。
そして最後の一周。
あたしはラストにスパートをかけた。
残った全ての力を足に込め、空を切って突き進んだ。
”グゥ~リィ~コォ~”
ゴール目前、あたしは呪文を唱えながら手を上に挙げ身体を宙に預けた。
「5分20秒」
倒れこんだあたしの肩をガシッと掴み、西原芳美がタイムを告げた。