アポロチョコ

「残念だけど、味より量なの。お口に合うといいんだけど」

彼女は大きなお玉で、丼によそったご飯の上に、具を乗せていった。

「あ、咲さん、悪いけど、この具の上からそのタレを大匙一杯づつかけてもらえるかしら」

「はいっ!」

あたしが最後のタレをかけた端から、丼が手にとられて消えていく。

「いっただきまぁ~す!」

元気な掛け声とともに、食卓はしばし静かになった。


ご馳走になった親子丼は、ほんのり甘く凄く美味しかった。

ここには、あたしが願っても手に入らないものがある。

温かいご飯と、温かい家庭。

そして、母の優しい笑顔。


「咲さん、遠慮しないで、また来てね」

玄関で大きく手を振られ、あたしも大きく手を振り返した。

「いいお母さんだね」

「まぁな」

普通に頷ける山上は幸せ者だ。

「またお邪魔してもいいかな」

「見ての通り、家はいっつもあんなだから、食いぶちの一人や二人増えても全く問題なしだ」

「ハハ……、そうだね」

「遠慮はなし。咲ならいつでも大歓迎だ」


あたしは山上のその一瞬の変化を聞き逃さなかった。


――今、なんてった?

咲、とか言わなかった?!


突っ込みたいけど、突っ込めない。

なんか墓穴を掘りそうで。

山上は約束通り、あたしを家まで送り届けると、じゃ、また明日、とあっさり帰っていったのだ。
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