アポロチョコ
「で、咲、バレンタインのチョコだけどさ」
「えっ、あぁ、霧子、何の話だっけ?」
土曜日、今日は朝から霧子の家に押しかけて二人でガールズトーク。
って言っても、霧子が掃除や洗濯の合間に居間でゴロゴロテレビを観ているあたしに話しかけてくる、ってだけだけど。
家にいたって一人だし、つまんねぇし。
「だから、バレンタインのチョコ、どうするって話」
「えっ、あぁ、霧子、友チョコいるの?」
ゴロ寝から胡坐座に座り直し、あたしは霧子の話に耳を傾けた。
「じゃなくて、咲は山上くんにあげなくていいの、って話」
「告白チョコなんて、無理無理無理! 今更振られたら、あたし立ち直れないよ」
「振られるってことはないと思うけどなぁ」
「わかんねぇよ。
だいたい、あいつが何考えてんのかさっぱりわかんねぇし。
毎晩あたしに飯食わせるのだって、あたしが家で一人で居るのを同情してのことだろうし。
家族にだって、陸上部の後輩だって紹介してたし。
あたしを好きな素振りなんて微塵もないし(キスは一回したけどさ)」
「そうかなぁ~」
洗った食器を棚にしまいながら、霧子が少しだけ語尾を伸ばして呟いた。