アポロチョコ

「荒い物途中でゴメンなさい。あたし、帰ります」

「そうね、その方がいいわね」

お母さんの声を背に、上着を掴んでそのまま外へ走り出た。

「待てよ、送る」

山上が追いかけてきた。

「大丈夫、一人で帰れる」

「こんな夜に一人で帰せるかよ」

結局走って逃げてもこいつには敵わない。あたしは諦めて、走るのを止めた。

「まだ、目、痛むのか?」

タオルを顔に当てたままのあたしを気遣って、山上が聞いてくる。

「ん……」

あたしは小さく頷くと、更にきつくタオルを顔に押し当てた。

だって、涙が止まらない。

心が痛い。


二人して無言で夜道を歩いた。

それは、ここ数日繰り返された幸せの時間。

でも、もうお終いにしないといけない。

山上に期待し過ぎるのは迷惑だ。


次第に収まってきた涙と、落ち着いた気持ち。

家に着く頃には、あたしの決意は固まっていた。


「彼女でもないのに、毎日家に押しかけてゴメン。

走るの好きだから、部活はちゃんと続けます。

でも、もう山上の家には行かない。

けじめはちゃんとつけないといけないと思う」


あたしはそう言い残し、急ぎ家に逃げ入った。
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