アポロチョコ

いつもの美術室で、あたし達はお弁当を食べていた。

霧子はその傍ら、都の美術展に出展する油絵を製作中。

あたしの話に相槌を打ちながら、キャンバスに目を配る霧子。

「そうだよねぇ、咲らしさが無くなっちゃ元も子もない。

かと言って、諦めるつもりじゃないんでしょ?」

一度に三つのことを同時に出来るって、やっぱ霧子は凄いなと思う。

「好きだって言えたら楽になるのかもしんないけど。

拒絶されたらどん底だし。

今はちょっと気持ちを抑えて、距離を置きたい。

友人として、部活の先輩として、普通に話せたらそれでいい」

「わかった。

ご免ね、わたしもちょっと面白がって煽ったとこあったし。

暫くは見守ることにする」

よしよし、と霧子に頭を撫でられて、あたしはやっと気持ちを整理することができたんだ。


そんなあたし達のやり取りを、山之辺は一言も口を挟まずじっと聞いていた。

いつもなら、なんやかんやと横槍を入れてくるこいつが、今日に限って大人しいことに、その日のあたしは気づかないでいた。
< 56 / 80 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop