アポロチョコ
いつもの美術室で、あたし達はお弁当を食べていた。
霧子はその傍ら、都の美術展に出展する油絵を製作中。
あたしの話に相槌を打ちながら、キャンバスに目を配る霧子。
「そうだよねぇ、咲らしさが無くなっちゃ元も子もない。
かと言って、諦めるつもりじゃないんでしょ?」
一度に三つのことを同時に出来るって、やっぱ霧子は凄いなと思う。
「好きだって言えたら楽になるのかもしんないけど。
拒絶されたらどん底だし。
今はちょっと気持ちを抑えて、距離を置きたい。
友人として、部活の先輩として、普通に話せたらそれでいい」
「わかった。
ご免ね、わたしもちょっと面白がって煽ったとこあったし。
暫くは見守ることにする」
よしよし、と霧子に頭を撫でられて、あたしはやっと気持ちを整理することができたんだ。
そんなあたし達のやり取りを、山之辺は一言も口を挟まずじっと聞いていた。
いつもなら、なんやかんやと横槍を入れてくるこいつが、今日に限って大人しいことに、その日のあたしは気づかないでいた。