“またね。”

中学校とは違い、広くて大きな校内。

方向音痴な菜摘にとっては複雑すぎるコースを歩き、玄関へと繋がる階段を下りた。

体験実習の時間が始まる。

本館から少し離れた場所にある、これまた大きな建物の中へと足を運ぶ。

「…なんかめんどくさくなってきた。早く帰りたいです」

「やる前から飽きんなよ!失礼なこと言ってないでおとなしくしてなさい」

隆志の特技は菜摘をなだめること。

『万年反抗期』なんて言われる菜摘でも、隆志の前では不思議と素直になれる。



…でも、意外と楽しい。

先生に教わりながら、順調に作業を進めていた。

「山岸、ちょっとこっち手伝ってくれ!」

先生が誰かに手招きをする。

1つの机に6人、指導する人はひとり。

どう考えても人手が足りない。

でも興味がないから、すぐ作業に戻った。

かっこいい人を探す、という目的は、あんまり楽しすぎる実習のおかげですっかり頭から抜けていた。

むしろ邪魔されたくない。



「あれ?先生、この子うまいじゃん」

頭上で声がした。

うまい?

なかなかいいこと言うじゃん、山岸。

「この実習できる子って珍しくない?しかも女の子だし。才能あんじゃん」

ずいぶんと大袈裟に褒められ、一旦手を止める。

褒め上手な人だなあ。

どんな人なのかなんとなく気になり、ふと顔を上げた。



『山岸』と目が合う。



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