“またね。”

みんなの声が飛び交う。

呂律が回っていなくて、うまく聞き取れない。

みんな目がおかしい。

焦点が合ってない。

目の前に広がるのは『異常』としか言い様のない光景だった。

吐き気さえもするほどの。



シンナーの匂いが鼻につく。

みんなの声が勘に触る。

「何やってんの!?」

急いで立ち上がり、植木くんの手から缶を取り上げる。

植木くんも駿くんも、こんなことしてるの?

大ちゃんと植木くんだけは正気らしく、呆然と菜摘を見る。

「ねぇ、何やってんの?美香にも吸わせたの?」

声も、手も震える。

目の前に広がる光景を

夢だと思えたなら─

「はあ?言い出したのはこいつだよ」

植木くんが親指で美香を指す。



…美香が、言い出したの?



─『あたしはやってないよ』─



嘘だ。

嘘だ─



「…植木くんも吸ってんの?」

植木くんは菜摘をきつく睨んだ。

「うっせぇな。文句あんの?」

元々鋭い目がさらに鋭くなり、威圧感を増す。

でもそんなの平気。

怯むわけにはいかない。

「あるよ!バカじゃないの!?」

「マジうぜぇ!ただの遊びだろ!こいつ呼んだの誰だよ!」

─ただの遊びなんて、絶対にダメだよ。

そんなの単なる言い訳でしょう?

植木くんは本当にイライラしている様子で、荒々しく煙草に火をつけるとライターを投げた。

菜摘の足元に、壁に当たったライターが力なく転がる。


< 102 / 407 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop