“またね。”
その日から、あまり大ちゃんのところへ行かなくなった。

どんなに忙しくても、どんなに少しの時間でも、必ず会いに行っていたのに。

大ちゃんを避けるなんて自分でも驚いた。



だって、どんな顔して会えばいい?

うまく話せる自信がない。

うまく笑える自信がない。



「なっつ、最近あんま山岸さんとこ行かなくなったね。なんかあったの?」

放課後、すでに溜り場になった理緒の家。

理緒の問いに、落書きしていた手が止まる。

「そういえばそうだよね。どしたの?」

由貴も理緒に続く。

俯いたままペンを置いた。

「ううん、なんもないよ。そんな毎日行ってたらさ、ストーカーみたいじゃん」

「楽しそお~にストーカーと話すバカがどこにいんの?」

軽く流そうとしたのに、麻衣子に笑い飛ばされた。



…大ちゃん

菜摘と話してる時、楽しそうだった?



「…うん、まあ、なんかあったらいつでも聞くからね」

『無理しないで』と付け足し、理緒が柔らかく笑う。

「…うん。ありがと」



…でも

大ちゃんが何を考えてるのか、菜摘にはわからないよ。



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