“またね。”
予鈴が鳴り、それぞれの教室へ戻る。

「あ、菜摘」

呼び止めたのは大ちゃんだった。

振り向くと、片手をポケットに入れ、もう片方の手でこめかみをかく。

気まずそうに目を泳がせながら口を開いた。



「…こないださ、ごめんね」



『こないだ』で思い当たる節は1つだけ。

菜摘が大ちゃんを避け始めた理由。

「…そんなこと気にしてたの?」

『そんなこと』と言ったのは、嬉しいから。

だってそれは、少しでも菜摘のことを気に掛けてくれてたってことでしょ?

「謝るタイミング見つかんなくてさ。俺バカみたいにしつこかったよね。ごめんね」

「忙しかっただけだから気にしないでよ。謝んなくていいってば」

自然と笑みがこぼれる。

嬉しくて

嬉しくて

…ひとつの決意をした。



「ありがと」



本鈴が鳴る。

頭に乗った大ちゃんの手に、全身が反応する。



「じゃあ、またね」



ねぇ、大ちゃんは

『またね』って、どんな気持ちで言ってるの?


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