“またね。”
「遅かったね」

教室に戻っても、まだ先生はきていない。

ガヤガヤと賑わう中でも、理緒の高い声は真っ直ぐ菜摘に届いた。

「うん、大ちゃんと話してた」

「え、話したの?2人で?」

「うん」

「よかったあ」

泣き真似をしながら大袈裟に喜ぶ理緒。

喜んでくれるのは嬉しいけれど、菜摘はきっと、その笑顔を崩してしまう。

「だからね、菜摘」

だって、決めたんだ。



「大ちゃんのことは、もう諦めるから」



大ちゃんのことは諦める。

新しい恋をする。

今ならまだ…まだ間に合う。

そう思いたい。



「…なっつ、本気で言ってる?」

「うん」

「中学ん時からずっと好きだったんでしょ?」

「…うん」

でも大ちゃんは振り向いてくれないから。

それなら諦めるしかないじゃない。

「なっつが決めたならいいんじゃない?」

コーヒー牛乳を飲みながら、ふっと笑う麻衣子。



いつも安心させられるはずの、理緒の百面相が寂しい。

麻衣子の無関心な表情に、安心させられた。

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