“またね。”
「俺もう行くわ」

…大ちゃんはずるい。

大事な場面になると、いつもはぐらかすんだから。

「…うん」

大ちゃんは立ち上がり、赤いキャップを菜摘に被せた。



「…俺にとっても、菜摘は宝物だよ」



─そんなこと言っといて

笑顔を向けておいて

頭を撫でておいて



大ちゃんはいつも、背中を向けて去って行くんだ。

振り向いてすらくれないんだ。



どんなに背伸びしても

どんなに手を伸ばしても

どうしても届かない。



菜摘にはちょっと大きすぎるキャップを深く被って

ほんの少しだけ泣いた。
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