“またね。”
放課後、菜摘があまりにもうるさかったからか、ふたりが気晴らしにカラオケへ連れてきてくれた。
「ああー会いたい!!高校受かるまでなんて待てない!!」
マイク越しに叫ぶ菜摘。
ただでさえ声が大きいのにマイクなんて使っちゃったもんだから、ふたりとも両手で耳を塞いだ。
キーンと、耳鳴りに例えるには大きすぎる音が部屋に響く。
「でもさ、こないだ会えただけで充分じゃん。覚えててくれたんでしょ?」
伊織の言う通りだと思う。
思うけど―
覚えていてくれたからこそ
また会いたくなっちゃうんだ。
…欲張りなのかな。
会えて本当に嬉しくて、声もうまく出なかったし、ちゃんと喋れなかった。
緊張で声が震えるなんて初めての経験で、話し掛けることで精一杯だった。
せっかく会えたのに、何やってんだ菜摘。
「…トイレ行ってきまあす」
肩を落として部屋を出る。
もう本当に悔しい。
…また会いたいな。
もう1度会えたら、次こそは失敗しないのに。
1週間前に会えたのは、やっぱりただの偶然だったんだ。
奇跡だの運命だの、そんなものはない。
全部タイミングでできていて、たまたまタイミングがよかっただけの話だ。
階段を5段下りる。
正面にあるフロントの隣は喫煙所。
……なんとなく。
本当になんとなく、喫煙所に目を向けると……。
ありえないと思った。
信じられなかった。
これも偶然なんだろうか。
でもそんなのどうだっていい。
また会えるなんて……。