“またね。”
「理緒、いいから!先行ってて?」

「だってほんとに理緒が…」

「いいから。ごめんね」

もう1度『先行ってて』と繰り返すと、理緒は心配そうな表情を浮かべながらも教室へ戻って行った。



携帯を確認すると、不在着信が3件ある。

「なに?なんか用あった?」

亮介は目を鋭くした。

菜摘は気が強い方だと思う。

どんなに睨まれようが怒鳴られようが、終いには物を投げられようが、正直怖くもなんともない。

怖いのは―

「どこ行ってたかって聞いてんだよ!」

どうして怒られなきゃいけないの?

休み時間まで拘束されなきゃいけないの?

「菜摘の勝手じゃん」

そう吐き捨て、亮介の横を通ろうとした時

腕を強く掴まれた。



「ふざけんなよ」



ふざけんな?

こっちの台詞。

「いい加減にしろよ。そんな睨まれたって別に怖くないから」

舌打ちした亮介の腕を振りほどき、足早に教室へと戻った。



怖いのは―

いつか限界がくると悟ったことと

壊れていく環境。

それだけ。
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