“またね。”
『別れよう』



息を大きく吸って、吐き出す寸前で止めた。

すすり泣く声が聞こえてしまったから。

初めて、亮介の涙を見てしまったから。



「俺…何やってんだろ。ごめん…」

…泣くなんて卑怯だ。

「ごめん。俺変わるから。別れたくない…」

『別れたくない』

望んでいた台詞。

でももう限界でしょう?

菜摘も、亮介も。

「でも菜摘は─」



「捨てないで。お願いだから…」



─『捨てないで』─



なんか―

知らなかった。

ここまで追い詰めてるなんて。

人を利用して追い詰めることがどういうことなのか。

菜摘は何も知らなかった。



『別れたくない』と言う亮介。

解放してあげることと、亮介の望み通りにこのまま付き合っていくこと。

どっちにするべきなのか、菜摘にはまだわからなかった。

そんなことすらわからないのに、人を利用してここまで追い詰めた。



「…わかった」



答えなんて出てないのに、そう言ってしまったのは

いつのまにか情がわいてしまったんだと思う。

自分でも気付かないうちに。



亮介の隣に腰掛け、そっと抱き締める。

亮介の涙が止まるまで

ずっとずっと、抱き合っていた。



お互い違う意味だけど

お互い依存し合ってた。
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