“またね。”
「遅刻?」

「うん。大ちゃんは?」

「1時間目、集会なんだよ。体育館寒いからさ」

寒がりな大ちゃんは、『冬の体育館は嫌いだ』と何度も言っている。

その気持ちはなんとなくわかるかも。



「大ちゃん、最近学校きてないよね」

聞くつもりはなかったのに、つい口が滑ってしまった。

だって本当に心配だから。

「んー…まあね。でも単位足りてるから大丈夫だよ」

やっぱり─

大ちゃんは何も言ってくれない。

菜摘には『なんかあったら言えよ』だなんて言ってたくせに。

大ちゃん、ずるいよ。

「そっか」

俯き、小さな声で言う。



寂しい。

ねぇ、何かあったんじゃないの?

どうして何も言ってくれないの?

でもこれ以上は詮索しない。

どうせはぐらかされるだろうから。



そっと─

大ちゃんの手が、菜摘の髪に触れた。



「心配してくれてありがと」



地下歩道を抜け、太陽の光が差し込む。

大ちゃんは、下手くそに笑っていた。
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